双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

春霞に似て否なる哉

|日々|


春霞と見紛う程、空に季節の異物が舞って居る。
こんなものは見るのも吸うのも、真っ平御免であるが、
今更どうと云ったところで、仕方あるまい。
首から上、何処も彼処もむわむわとむず痒い不快感を、
ずるずると日がな引き摺り、しょぼくれた両の目に
ぽとり、目薬をたらす。これさえ無かったなら、
ほんの幾らかでも、春を好く理由が見付かるやも
知れぬのに、と常々想う。相変わらずの午後。
たとえ不恰好であっても、背に腹は替えられない。
眼鏡の上に大袈裟なマスクを付け、うぅと洩らしながら、
帯の隙間に財布を挟んで、八百屋にキャベツを買いに行く。
しかめ面した道すがら、ふと立ち止まり、まるで桃の花のよに
色濃い寒緋桜を、ためつすがめつ眺めやって居たら、
じろじろと不躾な奴め、とでも想われたのだろ。
たわわに咲いた枝の何処ぞから、一羽の小さな山鳥が、
パサと飛び去った。成る程、春であるのかねぇ。

<