双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

猫たち

|猫随想|


暦が立冬を迎え、去りし想いに穏やかな区切りを
受け入れ始めた先日。想いもよらぬ話を耳にした。
件の、火事と猫の話の顛末である。
老夫婦のお爺さんの方は、実のところ認知症
かなり進んで居るとかで、そのせいかどうかは
分からぬのだが、母屋の横の掘っ立て小屋のよな
離れで、お婆さんと総勢二十匹もの猫たちが、
寝起きを共にして居たらしい。猫屋敷、か…。
当初近所の人の話では、恐らく七匹くらいかなぁ、
などと聞いて居たので、それだけでも充分に驚きで
あったのだけれど、その後に続いた話に、言葉を失う。


焼け出されてしまった猫たちは、行き場を失って
散り散りになってから、早いものたちで四〜五日、
或いは一週間程経った頃から、今は更地となった焼け跡へと
徐々に戻り始めたらしい。しかしながら、焼け跡へ戻って
来たところで、もはや住処も無く、餌をやる人も無い。
僅かに残った瓦礫で身を寄せ合った猫たちは、
衰弱の末、次々と死んでしまって居るのだと云う。
嗚呼、何と云うことだ…。餓死ではないか。
想わず、両の手を口元へあてがう。
真っ先に浮かんだのは、あの、おまるのことであった。
心善き人に世話して貰って居る、とばかり考えて居たが、
突然に姿を消したおまるもまた、皆と同じ末路を辿ったのだろか。
逞しく生ゴミを漁れるくらいであれば、衰弱して、
飢えて死ぬことなど、無かった筈だろうに。
皆、結局は野良にもなれず、主も住まいも無くなった
元の場所へと、とぼとぼ戻って来るしか無かったのか。
理屈や説明のつかぬ、不可思議な絆の繋いだ、哀しい死。
困った近所の人たちが、死んでしまった猫を見付けては、
仕方無く、その土地に埋めてやって居ると聞いた。


焼け跡へ行く、と云うことも出来た筈だが、
私はそれを、しなかった。
否、出来なかった。

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