双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

パガニーニの主題による協奏曲 第18変奏曲

|回想|


昨晩の夜も更けた頃。靴下の整理ついでだからと、
また性懲りも無く掃除など始めたら、赤茶けて
すっかり錆の出た煎餅の缶を見付けた。
確かここには、大昔のカセットテープが入って居た
のではなかったかしらと、難儀しながら蓋を開ける。
ところがいざ開けてみると、テープはほんの二本だけ、
後はどうでも良いよなガラクタばかりで、フンと思う。
ラクタは兎も角。この二つのテープのレーベルは
無記名で、そこに何が録音されて居るのかは、
さっぱり記憶に無く、ちいとも思い出せない。
ケースを開けて中身を取り出すと、半分に折った一枚の紙切れ。
曲目の書かれたのを見て、瞬間ふっと記憶が蘇った。
嗚呼。これは確か高校の頃、文芸同好会の後輩だった
Mが作ってくれたのだっけ。Mは些か変わった娘で、
頼みもしないのに、クラシックの音源ばかりを集めた
テープを作っては、私によこしたものだった。
当時は電車通学だったから、今となっては懐かしい
ウォークマンなんぞ聴きながら通って居たのだけれど、
鞄の中のスミスやサンデーズに混じって、何故だか
このMのテープが、いつも在ったよな気がする。
片面三十分ずつの六十分の中に、ラフマニノフ
ショパンワーグナー、モ−ツァルトなどなどが
一緒くたのへんてこな選曲が、どうにも疑問で、
いつだったか。Mに選曲の基準を訊ねたことが在ったが、
不敵な笑みを浮かべて、彼女はぼそっと云った。


「ホビ先輩のイメージですよ。フフッ…」


件のテープを聴きながら、今日の日記を書いて居て、
音源が恐らく、レコードからだったことに気付いた。
パッヘルベルのカノン…。
はて。どの辺りが私だったのだろか。

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