双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

掌に残ったもの

|縷々| |本|


夕刻をもうすぐに控えた午後の西日が、角の丸くなった
全集の背表紙を包み込み、やわらかに歪んだ光が
全体に差し込むと、やがて陰りに追いつかれるまでの
僅かの間。刻はゆっくり光に溶け込んで、
段々に輪郭を曖昧にしながら、そこに在るものの感覚を
とろり、鈍らせる。あたたかな、薄ぼんやりした
橙色の時間の欠片をひとつ、切り取ってポッケにしまう。
夜の更けた頃に思い出して、それを取り出してみたけれど、
差し入れたポッケの中はひどく、ひんやりとして、
切り取った筈の橙色は、すっかり消え去った。
ただ、真白い紙切れが一枚だけ。
言葉になるものとならぬものの、在ることを知る。
掌に、微かに。午後の残像のぬくもり。

[火曜日の本たち]

部屋にて

部屋にて

時のかけらたち

時のかけらたち

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