双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

たそがれとしんみり

|映画| |散策|


久々に乗った電車は新しい型で、それが妙にモダン過ぎるのがいけないのか、どうにも居心地が宜しく無い。途中の駅からAちゃんが乗ってきて、各駅停車は小一時間程揺られて映画館へ。初回上映の割引を考えて午前中に出て来たのだけれど、受付で 「本日は映画の日ですので、千円でご覧になれます。」 と告げられ、ああ。そう云えばそうだった、と気付く(苦笑)。人も疎らなロビーにて『長江哀歌』のチラシを、しげしげと手に取る。
やはり、と云うか『めがね』は想像通り、目に見えることの起こらぬ映画であった。具体的な事柄や話の筋などは、ここでは余り重要で無くて、説明も殆ど語られることが無い。漠然と、抽象的なものの繋がり。「雰囲気」で出来て居る映画と感じる。劇中、随所で使われる「たそがれ」については観る人によりけりで、幾度も繰り返されると、若干鼻につく部分が無きにしも在らず、と云ったところかも知れないが、私はしょっちゅう 「たそがれ」 て居る部類であるので、はて。どうだろか。ともあれ、ささくれ心は確かに緩まった。劇中のサクラさんが、襟無しのワンピースの上にくっ付けて居た「付け襟」に心惹かれたもので、早速にでもこしらえてみよう、と思った次第。
昼をまわった頃映画館を後にし、と或るカフェへと、てくてく徒歩にて向う。ここは我が店と定休日が重なるため、なかなか機会に恵まれ無いのだが、月曜も昼時の二時間だけ開いて居ると知り、久々に訪れてみた。気忙しい街中の通りから、ちょっと奥まった場所にひっそりと開いて居り、私もAちゃんも気に入りの店であったのだけれど、最後に訪れたときと比べて、何かが変わって居た。店内のしつらいなどに、別段変わりは無い。ただ、この昼の時間帯は喫茶類の品書きが注文できない、と云ったことや、こじんまりと塩梅の良く落ちついた店内とは、些か不釣合いなランチの品書きのあれこれ。ここもまた、時流には逆らえなかったのかしら、と複雑な心持ちになりつつ、言葉少なにお昼を頂き、しんみり店を後にする。珈琲が相変わらず美味しかったことが、救いだった。
元来た道、意識しながら見渡してみれば、古い建物はどんどん解体され、ちょっと見ぬ間に更地になって。かつてそこに在った筈の建物がどんなだったか、思い出すのに暫しの時間を要す。刻々と街は姿を変えて居る。そんな中、依然として寂れては居るものの、薄暗く昭和の色濃い、駅近くの商店街をぶらついて、幾分気持ちの落ち付いたのは、どうした訳だろか。その後立ち寄った『MUJI』にて、長袖のTシャツと、くるぶし丈の茶色のズボンなど買い求め、催事場の古書フェアを覗いて、昔の『太陽』を二冊ばかり。其々二百円にて買い求める。そのまま駅へ向うと、帰りの電車まで時間が在ったので、時間潰しに駅ビルへ。溢れるモノと騒音と人の洪水。帰りの車内では二人とも、自然、言葉少なになった。日も暮れてしんみり。

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