双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

春と女学生

|雑記|


先日出掛けた折、印象深い出来事が在ったので
ひとつ。帰りの電車の中でのこと。
乗客の半分程は学生らで、今更憂いたとて
仕方の無いこと、と知りつつあえて申し上げるが、
身なり振舞いのだらしの無いこと、この上無く、
皆がとり憑かれたよに、携帯をいじって居る様は、
深い溜息の一つも出る光景。乗車する者のことなど
まるで眼中にないよ、とばかりに、ドア付近にたむろする
むさ苦しい学生らの間を縫うよにして、混雑の少ない
中央の方へと進むと、明らかに、周りとは様子の異なる
少女がひとり、すっと背筋を伸ばして座って居た。丁度、
その女学生の前の座席が空いて居たので、腰掛ける。
彼女の着る制服は、懐かしや。私の母校のそれで、
栗山千明嬢を、少し庶民的にしたよな風貌に加え、
こざっぱりとした身なり、凛とした佇まいは、
昨今の女学生にひどく珍しく、清々しい好感が持てた。
見れば、少女の落した視線の先には、一冊の本。
はて。何を読んで居るのかしら、と思った矢先。
電車がホームを滑り出し、不意に彼女が顔を上げた際。
それと一緒に、ほんの一瞬。表紙もまた顔を上げた。
金子みすゞ詩集』
であったと思うのだけれど。
嗚呼。未だこんな娘さんが居たのだなぁ…と
何故だか、胸が静かに高鳴った。

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