双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

早朝の人間模様にカオスの渦

|市|


さて。毎月恒例、お楽しみ骨董市。
今月の参加は私とT君の二名のみ。いつもよか一時間
遅めの出発と相成る。到着してまずは、二個で八十円の
コロッケを食べ食べ、のらりくらりと一廻り。
馴染みの古着物屋にて、羽織とお召を買い求める。
おばさん、案の定値切りなどせずとも、半値にしてくれた。
しかし、そんなこんなして居る間も、私の頭の中の大部分を
占領し続ける、或る、たった一つの事柄よ・・・。そう。
「社長と専務の店」である。少し離れた場所より、こっそり
ちらりと盗み見るかの如く、様子を覗う。本日の社長。
いつものキャスケットに、狐色のコール天地のジャケット。
マントは無し。続いて専務。一通り並べ終えた品々を
眺めつらして、目を細めながらの、くわえ煙草。
軍ものコートも、今やすっかり板につき、その上本日は
な、なんと!髪をポマードで、オールバック気味の七三分け!!
嗚呼。僅か数ヶ月の間に、単なる手伝いから、骨董市仕様に
バージョンアップしてきて居る・・・。立ち姿一つとっても、
もはや貫禄すら漂い始めて居るのでありました。
若尾文子の写真がプリントされた、大層ファンシィな化粧鏡も、
中原淳一の版画も後ろ髪をひかれつつ、結局は、高価な為
手が出せずに、断念せざるを得ず。そこで、専務の一言。
「無理はいけませんから。大丈夫ですよ。」
ポッ。専務株、上昇中(笑)。流れでお隣に移動して、
軍事郵便など出して頂いたのを、ああだこうだやって居ると、
いつの間にやら、店そっちのけで社長が会話に加わリ、
話はどんどん戦時中の話題に。その内容はと云いますと、
少々ヤバいので、ここでは自粛致します(笑)。すると専務も
やってきて、銀縁眼鏡の奥よりその瞳をキラリさせながら、
近衛兵だのラバウルだのと、熱く語り始める。おや?あなた、
乙女男子では・・・?何処までが彼の守備範囲なのやら。
恐れ入りました。毎度の事ですけれど、やはりこの並び、
確かにディープ・ゾーンであります。T君曰く、
「社長と専務の店って、行くと何かしら買っちゃうよね〜。」
何かしらも何も、行けば必ず買いますよ。ふと、時計を見ると
先程見た時と同じ時刻を針は指し・・・。いけない!と、止まって居る!
T君、今何時だ!?予定時刻をとっくに過ぎて、慌てて帰る。

[本日ご縁の在ったモノたち]

  • 若尾文子ブロマイド
  • 熱海・冨士屋ホテル絵葉書
  • 着物少女叙情画(四枚):以上全部で千八百円
  • 軍事郵便絵葉書:三枚で百円
  • 真鍮茶たく:二百円
  • 化粧クリーム瓶:百円×ニ個
  • ターコイズ×藤色蔓柄羽織:五百円
  • 海老茶色縞柄お召:二千五百円
  • 宇野千代『私のお化粧人生史』(文庫):五十円
  • 昭和初期帯締め:五百円(おまけ:同羽織紐)


市の愉しさは、買い物だけにあらず。
店主らとのやりとりや、其処で知る
様々の事柄、混沌とした雰囲気諸々が
つい、通いたくなる魅力なのですな。

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