|市|
今月もまた、件の骨董市へと馳せ参じて参りました。
起床前に凄まじき雷雨となったものの、出立の時刻には
塵を払ったかのよな清々しい秋晴れに。面子は先月同様。
到着するや、早速おやきなど食べ食べ出店を物色。
馴染みの業者に混じって、新顔の店もちらほらと。
T君を連れていつもの如く、ぱっぱと小物の類を潔く購入
しつつ、新顔の並ぶ辺りをつらつら眺めて居ったところ、
何やら只ならぬ空気を醸す、と或る店舗の前で足が止まる。
「それいゆ」を始め、中原淳一の切抜きやらしおりやらが、
実に几帳面に袋詰めされ、所狭しとひしめくその店は
よくよく見ると、所謂「紙モノ」を扱う店と思われる。
しかもその、絶妙なる品揃えのセンスは、例えるならば
沼田元氣氏にも重なる。店主と思しき男性は格子柄の
キャスケットにウールの黒いマント、と云う奇天烈紳士な
出で立ち。して、それを手伝う青年は、場所柄珍しいよな、
実にこざっぱりとした細面の眼鏡青年。初めのうちは
探りを入れるよな様子で居た、この二人。うっかり店の
商品の素晴らしさに賛辞を口にするや、嬉々として、
次々紙モノを出してくる、出してくる。
「お姉さんは、あの〜、マッチとか好きな人?」
「うわ〜、好きです!」
「じゃあ、コレなんかも好きでしょう?」
読心術宜しく、あれもこれもと。
眼鏡青年は、その寡黙で内気な容貌からは凡そ想像できぬ
程饒舌に、昭和乙女モノへの愛情を熱く語り出す(笑)。
ああ、そうか。彼、オトメンなのか。かれこれ半時間以上、
次々と現れる素敵な紙モノに心奪われるうち、そんなこんなで
時間切れ。と、その時。年の頃、中学生と思しき少年が
ひょいとやって来た。タック入りのチノパンの中に、
ネルシャツの裾がしっかりインして居る。と、おもむろに少年、
「あの〜、東海林さだお、在りますかね?」
「あ、挿し絵?ごめんねぇ、今日は持って来てないわ。」
ちょっとお待ちなさいな。君は、どう見ても中学生の少年です。
それが「東海林さだお」とな?これは、ただごとにありませんよ。
と、呆気にとられる間も無く、次なるは中年男性。店主にこう尋ねる。
「千葉モノ、在るかね?」
「千葉はねぇ、これなんか良いでしょう。
借用書とか。あとはねぇ、内容証明とか。」
「アレないの?千葉モノで、事件モノ。」
千葉モノ?事件モノ???
一体、何なのでしょう。この世界…。良く云います。
「紙モノ」に一旦はまったが最後、なかなか足を洗えぬ、と。
その意味が、ようやく分かった気がした日曜日の、濃密な朝で
ありました。勿論、かく云う私もまた、紙モノに片足を。
[本日ご縁の在ったモノたち]