双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

青春初期衝動群像劇

|映画|


私的オールタイム・フェイバリットな映画である、
1991年のアラン・パーカー監督作品「ザ・コミットメンツ」。*1

ザ・コミットメンツ [DVD]

ザ・コミットメンツ [DVD]

アイルランドはダブリンにて結成された、
寄せ集めソウルバンド、ザ・コミットメンツの、
夢と希望と挫折とガッツとエゴとケンカに満ちた、
ほんのつかの間の、切なくも可笑しい青春群像劇の
傑作なのであります。結局、バンド自体は駄目に
なってしまうのですが、見終えた後に残る、あの
なんとも云い様無き清々しさが、この映画の大きな魅力の
一つではないかな。主人公ジミーの、半ば強引とも思える
メンバー集めの末、騒々しく始まるバンド活動。メンバーの
大半は目下失業中であり、下層の労働者であり、そして
ソウルを知らない彼らに、「ソウルとは何ぞや」を、
熱く熱く語り*2、「俺たちはコレをやる!」と、
集まったメンバーたちに、レンタルビデオ屋のブースで、
JBの失神ライブ映像を見せ、士気を煽るジミー。
(「コレをやるには、俺たち、ちょっと白すぎないか?」)
自分の作ったこのバンドを、一流のバンドに仕立てようと、
メンバーで唯一、本物を知る男・ジョーイと共に奮闘。
風呂場では、いつか訪れるであろうインタビューに向けて、
気の利いた受け答えの練習に没頭するジミー。いいよなぁ。
何だか物凄く分かるんだなぁ。役者たちは一部を除いて
その殆どがオーディションで選ばれた、ダブリン在住の
ツワモノ素人たち(ミュージシャン)ながら、各々の
キャラの立ち具合が秀逸。恐らくはかれこれ100回近く
この映画を見ている筈なのですが(笑)、それでも飽きる
ことの無いというのは、作中の随所にシンパシーを感じる
個所が多々とあり、登場人物たちが皆、実に活き活きと
リアリティに溢れて存在しているから、なのだと思う。
初ライブが、町の公民館であるだとか、ギターとベースの
二人が、以前に成り行きで加入していたバンドの名前が
酷かったりだとか(「アンド・アンド!アンド」) 、
公団の空き地では、必ずドラム缶に火が燃やされている、
といった、お馴染みの庶民の風景が直に感じられるのね。
そんな中でも、私が愛して止まない場面は、或る日の
練習の帰り、人気も疎らな電車の中。ジミーが例の如く
皆に 「俺ソウル論」 を熱く熱く語っておりますと、
誰からとも無く口ずさみ始めた「Destination Anywhere」が、*3
いつの間にか全員へと広がって、朗々と大合唱に・・・
というくだり。なんと云いますか、まるで全員の気持ちが、
同じ夢に向かって一つになってゆく事の、象徴のような気が
するのだな。爽やかで悲しくて可笑しい、青春群像劇として
純粋に隅から隅まで楽しめる、数少ない映画のひとつであり、
それ故に私は、心からこの小さな映画を長い間、愛し続けて
いるのであります。嗚呼。初期衝動というものは、きっと
人生において至極、大切なモノなのだなぁ。ダブリン上等!
我らがザ・コミットメンツのソウル魂、とくとご覧あれ!

*1:原作は、アイリッシュのホロ苦可笑しい日常を書かせたら、天下一品、ロディ・ドイルの「おれたち、ザ・コミットメンツ」

*2:彼のソウル論は、何と云いますか、かなりのオレ流ソウル論なのですが、妙に説得力あり。

*3:加えてサントラも良し。演奏は勿論、全曲ザ・コミットメンツ本人たち。オーティス、ピケット、アレサ等など、往年の名曲のカバーではありますが、選曲も秀逸。劇中ではマネージャーだった、ジミーの歌も聴けます。なかなかです。

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