双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ポッケの中の大切な気持ち

|本| |縷々|

家と庭と犬とねこ

家と庭と犬とねこ

  • 作者:石井 桃子
  • 発売日: 2013/05/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

ここに書かれたことの殆どは、戦後間も無しのことだったり、その後の経済成長期のことだけれど、物事の本質や心の在りように時代は関係無いのだな、としみじみ思う。そして、社会の構造のよな部分も、びっくりする程に様変わりしたり、天井と地面とがひっくり返ったりと云う訳でも無い。
桃子先生が東京と山の家とを頻繁に行き来しながら、山での共同生活を支えて居た頃の、都会の食料や経済のずっと底辺、作り手がその向こう側に居ることを、一向に気に掛けることのない風潮。キラキラとした都会と肥やしのにおいの田舎、と云う構図。桃子先生は両者の間の絶対的な溝や格差に、苛立ちや憤りを決して隠さない。正しい怒り。いっそヘラクレスみたいな巨人が、この難儀な問題を力技でもって「えいっ!」とやってくれたらなぁ、と願うもどかしさ。その一方で、都会へ出る度にうんざりさせられる”殺人的満員電車”への嫌悪は、何処かおかしみが在って印象的である。本書の中へ幾度も登場するくらいなので、案外先生はこの命名を気に入って使って居たのじゃないかしら(笑)。
都会の暮らしの目まぐるしい慌しさ、他人の愚痴話やら相談話を受けるばかりの毎日、人の嫌なところや身勝手さに心身疲れ果てて居たときに、突然颯爽と現れたバスの若い娘車掌さんの、その輝くよな溌剌さや気遣い、懸命に働く姿の美しさへの感動。山の家での質素でつましい暮らしの中、ささやかに祝うクリスマスと、モノもお金も無いけれど、贈る相手を大切に思いやって心を込めて拵えた贈り物。”おきぬさん”を始めとする犬や猫たちとの関わり、思い。
頁をめくってそれらに触れるにつけ、心がわざわざとしたり、きゅうとなったり、クスっとさせられ、ときには堪えきれず声に出してワハハと笑い、そうして感じたことを全て、丁寧に折り畳んで、ポッケの中へ仕舞っておきたいよな、大切な心持ちになる。生きることを、真面目に生きよう、と思う。


桃子先生。昔に比べたら、今の田舎は確かにずっと便利に、文化的になったでしょう。あらゆる場所で (良し悪しは別として) モノが溢れ返り、新たな手段が情報が次々と与えられ、誰もが便利で文化的な生活を得たように見えますが、しかしちいとも豊かではありません。便利さやお金、モノ、手段、情報が入り込むごとに、人はどんどん身体感覚を失い、大人はどんどん幼稚になり、我が我がと身勝手になり、一匙のユーモアを忘れ、殺伐といがいがとなるばかりで、自らの力で考えたり行動したり、他所の人を思いやったり労わったり。そう云う、当たり前だったことができなくなってしまいました。
昔と今と、どちらが良い時代でどちらがそうでないのか、それを計ることは容易にできないでしょうし、私にも分かりませんけれど、生きると云うことは。人が人らしく生きると云うことは、自らの体を頭を心を使って、実際に見て触れて感じて経験することで、それらを一切省略し、人差し指を無為にすべらせて何でも済んでしまうのは、実体の無い世界に居るよなもので、”人らしく生きて居る”とは云わないよな、そんな気がして居るのです。

園芸覚え書

|庭仕事|


以下作業日誌、及び今後の思案など。

【九月十日】
オールドローズ新苗到着

  • 『ソンブロイユ』(6号鉢)
  • ジョアシン・アネ』(6号鉢)

この夏の酷暑を乗り切った疲れからか。ジョアシン・アネ嬢の葉が若干痛んで居た他は、特に気になる部分も見当たらず。いずれのお嬢さんも、ほぼ中苗と云って差し支えない大きさまですくすくと育って居り、従って近々一回り大きな八号鉢へお召し替え予定。一先ず、もう暫くはこのままで落ち着いて貰って、徐々に新たな環境へ慣れて頂こう。


オールドローズ新苗注文
思うところ在り、後日もう一種注文した次第(笑)。

トレジャートローヴ (Treasure trove)
ランブラー、アプリコット色、小中輪、半八重カップ咲き、微~強香
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ぐんぐん伸びて多少日当たりが悪くともへっちゃら、強健はお墨付きの手間要らずなランブラー系お嬢さん。春の一季咲きだけれど、それがどうした。開花が進むに連れ花色をアプリコットから薄桃、白へと変化させ、秋にはコロンとした橙色のローズヒップを沢山つけてくれるのですヨ。フフフ。又、赤みがかった新芽も美しく、この系統の中では比較的棘の少ないのも嬉しいところである。
植え場所の候補は二か所在るのだけれど、このお嬢さんにとっての最良をゆっくり考えましょ。嗚呼、ローズヒップ愉しみ!

【九月十一日】
■軒下の花壇の整備

軒下の花壇は凡そ150cm四方程度の広さで、雨が殆ど当たらぬ分、乾燥しがちなのに加えて、昼までしか陽が差さぬため、育つ植物が極めて限られる難儀な場所である。植えてはいつのまにか消えて居た植物は数知れず。従って現在の植栽は、お隣の花壇から引っ越してきたアルテミシアと一人元気なコモンセージの二つのみ、と全くのスカスカ状態で入居者募集中なのだが(笑)、果たしてどんな子がここ向きなのかしらん。
又、ここの土はどうも養分が足りぬようなので、二週間ほど前にバケツに六杯程の土を入れ替え*1、更に腐葉土や堆肥などを梳きこんだ後、木酢液を薄めた水を撒いたりして慣らして居る最中である。はて。思惑通りになるかしら。


■メインの花壇の整備

こちらは茂り過ぎて困ったメドウセージを引っこ抜き、同様のチェリーセージを刈り込むなどして、花壇全体のボリュームを調整。酷暑に耐えかねて枯れてしまった幾つかの植物を掘り上げ、周辺をきれいに草取りしてから、硬くなった土をシャベルでサクサクと軽く起こし、ニームケーキをさっと蒔く。
鉢植えで窮屈になって居たブッドレアを、空いたスペースへ移植。地植えだと大きくなるであろうことを考慮し、シャラの木とチェリーセージから適度に距離を取る。そのまま直に植えても良かったのだが、何だか平坦でメリハリが無いなぁ。と、ふとした思い付きで、ヒビが入って使わずに居た素焼き鉢の底をスコップで叩いて抜き、それを1/3程地面に埋めたところへ用土を足し足し、根鉢を軽くほぐしたブッドレアを植えてみた。一見鉢植え?のよに見えるけれど、ちゃんと底が抜けて居るので根がのびのびと張れるし、地面から幾らか高さが在る分、ちょっと目先も変わるかな、と。後はこじんまりと茂る程度のハーブが二~三種類くらい在れば良いか。

*1:店の裏手の土は何故だか、ミミズやダンゴムシら地味な生物によって耕された黒々と肥沃な土となって居り、このようにしばしば役に立つ。

お嬢さん去り、お嬢さん来る

|庭仕事|


去る七月下旬のこと。地植えで大きく育ったオールドローズの「マダム・ピエール・オジェ」のお嬢さんが、若くして天に召された。突然の災難であった。
或る日、伸びすぎた枝を少しすっきりさせようと、鋏を片手に麦藁帽かむって花壇へ向かうと、枝葉の全体が黄色く色褪せて水気を失って居ることに気付き、しまった、この猛暑で水切れか? 一先ず液肥を施して様子を見て居たのだけれども、翌日翌々日と、見る見る皴っぽく枯れ込む一方で、嫌な胸騒ぎに茂った下草をかき分けて株元を調べてみれば、あわわわー木屑が!紛れも無い、憎きテッポウムシの仕業である。どうりで成虫のカミキリムシを何匹か見掛けた筈だヨ…。それがまさかオジェに巣食って居たとは、我ながら察しが甘かった。
オジェのお嬢さんにはもう一人、鉢植えの双子が居るので決してお家が潰えてしまった訳では無いけれど、手塩にかけた地植えっ子だからね。そりゃあやっぱり相応に悲しいよね…。
以来、ぽっかりと空いたスぺエスを日々見るにつけ、残された喪失感だけがもやもやと広がるばかりで、気の晴れることは一日たりと無かった。嗚呼。バラを失った穴は、やはりバラでしか埋められぬのだ!


と云う訳で。
すっかり沈没して居た気を「えいっ!」と取り直し、新たなお嬢さんをお迎えすることとした次第 (笑)。さてしかし。お迎えするのは良いけれど、どうして育てましょうかね。
やれモグラだテッポウムシだ何だで、地植えばかり三株も駄目にしたことを踏まえると、是が非でも地植えに拘らずとも、いっそ鉢植えで構わんのじゃなかろか。否、むしろ鉢植えの方が良いのじゃなかろか、と思えてきた。大きな面積への壁面誘引が前提故、当然とばかり地植え以外へ考えが及ばずに居たが、十号だとか十二号の大鉢なら先ず問題無いだろうし、改めて思い返してみれば、今までは幅も深さも決して十分とは云えぬ狭小スペースに、辛うじて収まって貰って居た訳で、幾ら丈夫とは云え、バラにとっては些か気の毒な環境だったに相違無く、ならばかえって大鉢の方が良いだろう。それに鉢の深さ分、地面からの高さがぐっと上がるので、見栄えやバランスなどの点からも都合が宜しかろうし、塩梅や生育状態を見ながら、より良い場所へ鉢ごと移動できるのも大きな利点かな、と。


+++


で、こちらが購入予定のオールドローズ二種。

ジョアシン・アネ (Joasine Hanet)
ポートランド、濃桃色、中輪、クォーターロゼット咲き、ダマスク (強香)

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濃厚なダマスクの香りに、小さなボタンアイを持ったお嬢さん。剪定次第でつるバラとして扱えるシュラブ樹形とのことなので、思い切り長めに伸ばしても良いし、コンパクトにこんもりと育てても良いかな。ポートランド系は病気に強くない印象が在って敬遠して居たけれど、こちらはめずらしく丈夫なのらしい。「強健」は必須条件よね(笑)。

ソンブロイユ (Sombreuil)
ライミング、クリームホワイト色、大輪、ロゼット咲き、ティー (中香)

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こちらはしっかりつる樹形で、オールドローズには希少な四季咲きに近い繰り返し咲きの性質を持つ、実に優秀なお嬢さん。やわらかなクリームホワイトの色合いと云い、大輪のクラシカルな花姿と云い、壁面へ誘引するには申し分無いかと。今まで拙宅には居なかったタイプで、勿論、病気に強い丈夫な子です(笑)。


お迎えの準備は種々悩ましくも、愉し。

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